原理こそ簡単だけど

 電子基準点の話をするときに「衛星測位の原理」は避けて通れませんが、それはいたってシンプルなものです。

 

  カメラの固定には三脚を使います。コンサートホールの天井マイクは3本のワイヤーで吊られます。3点からの距離が決まることで空間内の1点が定まることは、幾何学を持ち出すまでもなく直感的にイメージしやすい話でしょう。(ちなみに、こちらのページで三点吊りメインマイクについての詳しい説明がありました)

 

 衛星測位の原理もこれと同じで、3衛星の位置とそこからの距離が分かれば受信者の位置は決まる、が基本です。天球に固定された衛星から3本のワイヤーで受信機が吊り下げられているイメージです。幾何学的には2つの解が存在しますが、吊りマイクでは重力の存在が、GPSだと地表近傍という条件から、地心に近いほうの解を迷わず選ぶことができます。ちなみに地震の震源推定も同じ原理ですが、隕石の軌跡推定は、距離ではなく角度の問題なので、原理は違います。

  

 いっぽうGPS解説書の冒頭には必ず「最低4衛星が必要」と出てきます。これは電波を物差しに使うことから生じた条件です。電波の速さ(光速)は秒速約3億mととてつもなく速いため、これを物差しとしてメートル単位の正確さを得るには、3億分の1秒のオーダーで正確な時計が必要となります。測位衛星に積まれている原子時計は、もちろんそのレベルに達しており、当然ながらきわめて大掛かりで高価で、扱いに注意を要するものです。

 

 「4つめの衛星」は、受信者の手元にそのような時計がなくとも何とかする方法として登場します。

 

 位置が分かるということは、「座標 x, y, z 」の値が求められるということです。x, yと未知数が2つなら方程式は2つ、 x, y, zの3つなら方程式も3つ必要で、これは中学の数学で最初に教わる話です。

 

 もし受信機の時計が示す時刻を「時刻 t 」とします。そしてこの t を4つめの未知数として扱うことにします。

 

 これで未知数は「 x, y, z, t」の4つとなり、解を求めるには4つの方程式があればいいことになります。正確な位置の分かっている4衛星からの信号を受信することで、必要な4つの方程式を立てることができ、それを解けば4つの未知数の値が得られるわけです。

 このあたりについて解きほぐすため、かつてこんな記事を書きました。

 4つめの記事で、複数衛星に共通する距離の誤差X(受信機の時計誤差に相当する)を「束ねたロープの先でリングをスライドさせる」という実体に寄せて表現したのは、われながらなかなかのアイデアだったと思うのですが、ごく一部にしか受けませんでした(涙)。

 

  ともあれ、最初のGNSSである米国のGPSは、「地球のどこにいても最低4つの衛星が見え(電波が受信でき)ること」を設計要件として、衛星の数や軌道が決められました。これがシステムの核心部分であり、全地球測位システムと呼ばれるゆえんです。

(準天頂衛星システム「みちびき」ウェブサイト(内閣府)より イラスト:西井 匡)

 いずれスマホに入るくらいの値段とサイズで、現在の衛星搭載と同じ性能の原子時計が実現したとすると、原理的には衛星3機で測位が可能になります。ただそのくらい原子時計(あるいは正確な時刻信号)がコモデティとなった未来には、携帯の基地局やWiFiのアクセスポイントはもちろん、ひょっとしたら炊飯器や冷蔵庫や湯沸かし機などまでが信号を発しはじめ、わざわざ衛星に頼らずとも正確な自分の位置が分かるようになるかもしれません。ならないかもしれませんが。