電子基準点はGNSSに意味を与えられ、GNSSの運用には電子基準点が欠かせません。
地上の電子基準点網と対をなす軌道上のGNSSについて、用語集の形式で解説してみます。


原子時計

原子固有の性質を利用するきわめて精度の高い時計。

1秒の定義は「セシウム原子の状態が91億9263万1770回変化する時間の長さ」(国際度量衡局1967年)と定められている。

原子時計には他にルビジウム(Rb)や水素(水素メーザー)、ストロンチウム(Sr)などが使われる。
小型の原子時計を開発し宇宙に打ち上げたことが、衛星測位システム実現の核心といえる。


光速

光や電波(電磁波)の速度は真空中では29万9792.458 km/sと「定義」されている。イタリック体の” c ”が使われる。

測位信号の到達時刻を正確に計測すれば、測位衛星までの距離が判明するが、地表では「真空中」ではない電離層や対流圏(大気)を通過するため遅延が生じ、補正が必要となる。

 


CDMA

特定の数列(コード)をデータに掛けあわせて変復調する無線通信方式。 コードを使う変調は、結果として幅広い周波数帯域スペクトルに信号を分散させることになるため、スペクラム拡散方式とも呼ばれていた。Code Division Multiple Access(符号分割多元接続)の略で、現在の携帯電話や無線LANを支える代表的な無線通信方式。異なるコードを使うことで複数の機器が同じ周波数を同時に利用でき、ノイズに強い、秘匿性が高いなどのメリットがある。

GNSSにおけるCDMAは、衛星の識別と厳密な時刻計測の両面で活用される。原子時計とならび、GNSSを成り立たせる基本技術のひとつ。

 


PRNコード

GNSSでは異なる複数の衛星から同じ周波数で測位信号が送信されている。

PRNコードは電波がどの衛星からのものであるかを識別し、そこから情報を取り出すためのビット列で、暗号システムにおける復号鍵に相当する。

スペクトラム拡散の通信には不可欠の存在で、衛星/信号ごとにユニークなコードに付与された番号をPRN番号と呼ぶ。擬似ランダム雑音(Pesudo Random Noise)の頭文字


衛星測位システム

1)複数機の測位衛星

2)衛星を管理する地上局

3)利用者の受信機

から構成される、

4)利用者の正確な位置を求めるシステムのこと。最低4機以上の衛星からの電波を受信し、その伝播時間から衛星〜利用者間の距離を求め、計算により位置を求める。利用者は測位と同時に正確な時刻も得る。

⇒GNSS


GNSS

 GNSSはGlobal Navigation Satellite System(地球全体をカバーする衛星測位システム)の略。以前は米国のGPSが代名詞として使われていたが、ロシアGLONASS、欧州Galileo、中国BeiDouなどが整備され、総称としてGNSSが主に使われるようになった。

 日本の「みちびき」やインドのNavICは全球をカバーしておらず、厳密にはRNSS(Reginal)に分類されるが、GNSSに含められる場合も多い。



静止軌道

人工衛星が 1)地球の自転と同じ周期を持ち、2)地球の赤道面と同じ軌道面を持つ、という2つの条件を満たすとき、衛星は地上から静止して見える。そのような軌道を静止軌道(Geo-Stational Orbit)と呼び、静止軌道に投入された衛星を静止衛星と呼ぶ。

指向性の高い受信アンテナの向きを固定できるため、通信や放送などに多く利用されている。静止衛星を含むGNSSもある。 


IGSO

傾斜対地同期軌道。静止軌道と同じ周期で、軌道面を赤道面から傾けた(Incliment)軌道。衛星直下点の軌跡を世界地図に重ねると、赤道で線が交差する南北対称の8の字を描く。


準天頂軌道

IGSOをアレンジし、日本上空に長く留まるように設計された軌道。英語では”Quasi-Zenith Orbit”。

衛星直下点の軌跡は日本からオセアニアを広く覆う8の字、それも北半球側が小さい非対称の8の字となる。

軌道周期は地球の自転に同期しており、軌道面は赤道面から40度前後傾いた楕円軌道となっている。


仰角と方位角

仰角は衛星と地平線のなす角度。天頂が90度となり、天頂に近いほど「高仰角である」という。「衛星の高さ」と表現される場合は、軌道高度ではなく仰角を意味する場合が多い。
方位角は真北を0度とした場合の衛星の方角。衛星の見かけの位置は方位角と仰角で表現される。


擬似距離

電波伝播時間から求める衛星と受信機(ユーザー)間の距離は、電離層や大気の影響で誤差を含み、その大きさは時と場所により異なるため、適切なパラメータを用いた補正が必要となる。衛星測位では大まかな位置を求め、その地点における影響を考慮しながら近似計算し真値に近づけていく。この計算の出発点となる、補正前の情報から求められた距離を、擬似距離と呼ぶ。


マルチパス

電波は山やビルなどに反射し複数のルートを通って伝播することがある。直接届く電波と、反射した電波が同時に受信されてしまうことをマルチパス(複数の経路)と呼ぶ。反射して届いた電波は行路が長く時間遅れを生じているため、正確な測位を乱す要因となる。

 


アルマナック

測位衛星の軌道半径や離心率、軌道傾斜角など衛星固有の「軌道情報」は、適切な構造を持ったデータセットとして提供されている。これをアルマナックと呼ぶ。これを使うと、衛星の初期捕捉にかかる時間を短縮できる。GPS衛星は、他のすべてのGPS衛星のアルマナックを提供しており、「みちびき」もGPS衛星のアルマナックも送信している。


エフェメリス

アルマナックより詳細な高精度の軌道情報のこと。それぞれの測位衛星は自機のエフェメリスを送信しており、受信側でそれの情報をもとに、ある瞬間の正確な衛星の位置を計算する。名称の由来は英国王立グリニッジ天文台が発刊し航海に利用されていた”The Nautical Almanac and Astronomical Ephemeris (1758〜)”にちなんだもの。



電離層遅延

電離層とは、地球大気の上層部にある原子や分子から、電子が分離(電離)した状態(プラズマ状態)にある層。電波が電離層を通過する際には、電子やイオンの影響によって速度が遅くなり、これを電離層遅延という。

太陽活動により電離層は変動し、遅延の程度は時と場所により変わるため、測位の誤差を小さくするには細かな補整が不可欠となる。


2周波測位

電離層遅延の度合いは電波の周波数により異なるため、衛星から異なる周波数の電波を発信し、同時に受信して解析することで、その影響を見積もることができる。これをもとに補正を加えるため、2周波測位は、1周波の測位に比べ高い精度が得られる。


対流圏補正

主に大気中の水蒸気の影響により、電波伝播に遅延が生じる。これをキャンセルするための演算処理を対流圏補正と呼ぶ。対流圏とは地表から高度11km程度までの濃い大気が存在する領域の呼び名。補正に際しては、衛星の仰角が低いほど電波が大気中を通過する距離が長くなるため、そうした影響も考慮する必要がある。

 


補強信号

電離層や大気中の水蒸気による遅延などの影響を見積もり、測位精度を向上させるための信号を「補強信号」と呼ぶ。

たとえば「みちびき」では複数の周波数帯(L1S, L6)で送信するが、伝送手段は衛星に限らない。



GPS時

GPSでは、ある特定の時刻を表現する際、年月日を使わず「週と秒」だけで表現する。この体系(時系)そのもの、またはこの時系で表現される時刻を「GPS時」と呼ぶ。

広く使われている協定世界時(UTC)では、時折「うるう秒(leap time)」を挿入する補正が行われているが、GPS時ではそのような処理は行わず、UTCのオフセット値(ズレ)を補正情報として送信している。


ロールオーバー

GPS時は1980年1月6日午前0時(UTC)を起点としており、週数には10bitが割り当てられており、カウントは1024週でゼロに戻る。1999年8月22日に最初の、2019年4月7日に2度めのロールオーバーを迎え、現在は3巡め。


IGS精密暦

世界規模で収集した観測データを解析し、測位衛星ごとの誤差の実績値をまとめたもの。これを使用して補正することで、より正確な測位結果が得られる。Quick(超速報)、Rapid(速報)、Final(最終)の3種類があり遅いものほど高精度。


SIS-URE

測位衛星の性能の指標。視線方向の距離の誤差を±mであらわす。

 


相対測位

座標が分かっている点の観測情報を使って精度を高める測位手法。対:単独測位。