浮き沈みを知る「H」

 潮位を測るP点のほかにも、電子基準点には英字を冠したいくつかのバリエーションがあります。そのひとつがH点です。

 写真は浜名湖の南西岸にある「H新居」(13H101)。民家と高校に隣接する公園敷地の道路際に位置し、その道路も駅につながる比較的交通量のある通りなので、視界の隅の記憶に残っている地元の方は多いのではないでしょうか。

 ただ、説明板の内容まで詳しく読んだことのある方は少ないと思いますので、ここで全文を紹介しておきます。


 「H新居」(13H101)

 電子基準点は「高さ5m」が標準となっています。その理由は、いたずらからアンテナを守り、なるべく樹木の枝葉がかぶらないようにするためです。しかしH点は頂部までの高さが2.5m。多面体に覆われた台形の低背形状で、一言でいうと「ずんぐり」した見た目です。5mのマッチ棒とは、印象もかなり違います。

 

電子基準点(高精度比高観測点)

 

 この施設は、電子基準点(高精度比高観測点)といいます。

先端部には、GNSS (Global Navigation Satellite System) 衛星が発信する電波信号を受信するアンテナが取り付けられており、その内部にはGNSS受信機と受信データを転送する通信機器などが格納されています。そして、24時間の連続した観測が行われています。

 GNSSは、米国のGPS、日本の準天頂衛星、ロシアのグロナス、EUのガリレオ等の衛星測位システムの総称です。

 国土地理院では、全国に設置した各地の電子基準点から得られるデータを茨城県つくば市にある中央局に転送し、コンピュータで計算処理して、各電子基準点の正確な位置を求めています。

 電子基準点は各種測量の基準として利用されるとともに、地震・火山噴火活動等の地殻変動の監視に役立っています。

 

国土地理院 電話番号 029-864-1111  http://www.gsi.go.jp/


  目と鼻の先には、慶長5年(1600)に家康が設置した新居関があります。箱根と並び「入り鉄砲に出女」を厳しく取り締まった関所で、現在は国指定特別史跡・新居関跡となっています。
「もとは現在地の東方向島にあったが、津波のため移転、更に地震のため、宝永5年(1708)現在地に移転したものである」(文化遺産オンライン, 文化庁)と、江戸時代に数度の地震災害に襲われた場所ですが、江戸期以前にも、淡水湖だった浜名湖が海とつながったと言われる1498年の明応地震で、すぐ前の浜名川の河口が閉塞し、西に流れていた川が逆流するようになった(歴史地震, 第25号, 2010, 藤原ほか) など、地震がもたらす隆起沈降で大きな環境変化にさらされてきた場所です。そうした場所の高さ計測を精密に行おうというのが、H型の電子基準点「高精度比高観測点」の目的です。

局番号の13H101から、設置されたのは2013年と分かりますが、H点の整備そのものは1998年から始まっています。

 

 静岡県の御前崎~掛川~森にわたる約50kmに、1~2kmという短い間隔で配置されたのが最初で、技術的には以下のような工夫が凝らされています。

 

・ピラー(柱)を二重構造として、日射による伸縮の影響を軽減。

・パイル(基礎杭)と基礎の鉄筋を一体化し強固に。

・基礎コンクリートを埋戻す際の位置ずれを避けるため、型枠使用は地表面近くに限り、深い部分はコンクリートを直接流し込む「山打ち」という打設方法を採用。

・異常値が架台の傾きによるものかどうかを判定するため、傾斜計を内部に設置。

 

 こうした工夫は後の02型に継承されていますし、風雪にさらされる「富士山」(021100)にも同型のピラーが使われています。「ずんぐり」にもそれなりの理由と効能があるわけです。 

 基本的に電子基準点は、借地料がかからない学校や公園など公共用地に置かれていますが、高精度比高観測点はたびたび人間が出向いて、水準測量(高さの精密計測)を行う必要があることから、作業のしやすい幹線道路沿いが選ばれています。人通りの多い場所では毀損を避けるため柵囲いされている場合もあるようです。

(人力で行われる水準測量の作業 写真:国土地理院)



「H豊橋」(98H007)

豊橋市の幸公園に設置されたH点(高精度比高観測点)。公園を利用する子どもたちには、遊具の一つか何かだと思われているかもしれません。道路際なので、ボールをぶつける的にはなっていなさそうです。