なかなかすごい「P」

 名前や愛称の後に親しみを込めてつける敬称「P」は、初音ミクなどのボーカロイド(合成音声による音楽制作ソフト)を使った楽曲のクリエイターをさす「ボカロP」に由来するもので、かならず大文字が使われます。かの米津玄師もハチという名のボカロPだったのは有名な話です。

  いっぽう電子基準点にもPのつくものがあります。やはり大文字で、こちらは必ず前に置かれます。

 


電子基準点「P勝浦」(02P107)

 千葉県勝浦市の興津漁港に2003(平成15)年3月に設置された、潮位(海面の高さ)を計測する施設で銘板には「勝浦験潮場」とあります。

 

 建屋の屋根からキノコのように飛び出したGNSSアンテナが電子基準点であることを示しています。

 

 なおボカロPのPはプロデューサーを意味しますが、電子基準点のPは、オランダ語で基準水面を意味する"Peil”からきています。

 

 干拓で国土を作ってきたオランダは水に関わる土木測量の技術水準に突出し、明治初期のお雇い外国人のうち河川整備や築港に関わる技術者のほとんどが同国からの招聘でした。

 

 日本の標高の基準である東京湾平均海面をプロっぽく表記すると「T.P.」となりますが、これもTokyo Peilの頭文字をとったものです。(参考:国土地理院時報, 2002, No.99)



電子基準点「P男鹿」(02P104)

秋田県の男鹿半島突端に位置する男鹿験潮場

 男鹿半島突端の男鹿験潮場は、水族館の敷地の先の、日本海を背にする岩場に立っています。個人的には初めて訪ねたP点でもあり、ダイナミックな景観にテンションが上がりました。

 

 国土地理院ではこうした「験潮場」25か所に加え、気象庁の「検潮所」13か所を、電子基準点として運用中です。

 

 また、海上保安庁も航路維持などのために「験潮所」を運営管理しており、気象庁のデータと合わせリアルタイム験潮データとして公開しています。

 

 目的や来歴の違いから験潮場(地理院)、検潮所(気象庁)、験潮所(海保)と名称は違いますが、そこは各組織とも尊重し合いつつデータの相互乗り入れを図っているわけです。


  地上を基準に海の高さを測る験潮場ですが、工夫すれば海を基準に陸地の変化を知ることもできます。 国土地理院の解説ページには「近接している験潮場では、相互の平均潮位を比較することで、相対的な地殻変動をとらえることができます」とあります。いわば海面そのものを“水準器"として使う計測法とも言えるでしょう。さらにこれを拡張し、世界的な観測ネットワークと紐づけて解析することで、地殻変動による陸地の隆起/沈降量を除いた、混ざりっけなしの海面の高さの変化を導き出すこともできます。

(地盤上下変動を補正した海面水位変化(勝浦験潮場)、国土地理院)

 勝浦での海面変動を示すこのグラフには、年6.15mm(±0.18mm)の海面上昇の傾向が示されています。もちろん海面高は気温・水温や気圧、海流の向きなどさまざまな要素で変わるものなので、すべてがそうとは言い切れませんが、間違いなくこのトレンドの中には「地球温暖化による海水面の上昇」も含まれているはず。年6mm、けっこう大きな数字に思えませんか?