石に刻まれた秘密

  電子基準点は、GNSS衛星からの測位信号を受信する設備です。宇宙から降ってくる信号を解析し得られた情報は、地殻変動の把握などにも役立てられています。なので「ここが宇宙の波動と大地のエネルギーをつなぐパワースポットだ!」みたいな説明もできなくはありません。しませんけど。

  予備知識なしに目にすると「あやしい電波を出しているんじゃないか?」「いけない情報を集めているのではないか?」といぶかしむ人もいるとかいないとか。いらぬ誤解を避ける意味でも、意図や来歴を説明する銘板は欠かせません。解説されている内容は作られた年代によって少しづつ違っていますが、見てきた中で飛び抜けて詳しい説明があったのが、名古屋市の東側に接する日進市の市民会館の電子基準点「日進」(940063)の解説です。文章はわざわざ石に刻まれ、ピラーの足元に置かれていますが、ここまで詳しい理由は何でしょうか? 考えられる理由は、以下のようなことですが、どれか(全部?)当たっていたりしないでしょうか。

  • 人通りの多い市民会館のバス停裏なのでとくに詳しい解説が必要だった
  • そばにいくつかオブジェがあり、負けるわけにはいかなかった
  • 国土地理院中部地方測量部に熱心な担当者がいた

 以下が碑文の写真(2枚合成)と読み取った文章です。一部読み取れなかった部分(■■)があったり、私のほうで太字にしたセンテンスもありますが、まずはご覧ください。


G P S 観 測 局

 

 ここに建てられているステンレス製の構造物を国土地理院ではGPS観測局と呼んでいます。GPS観測局は、タワー、アンテナ、受信機及び通信用機器で構成されています。タワーの頂部には、上空約2万kmを周回するGPS衛星が発信する電波を受信するためのアンテナが設置されています。タワーの内部には、受信機と通信用機器が格納されています。基部には、受信機などに電気を供給するための電力線と観測データを茨城県つくば市にある国土地理院に転送するための電話線が敷設されています。

 

 国土地理院では、全国各地のGPS観測局で観測されたデータをコンピュータで計算処理して、GPS観測局の正確な位置の決定を行うと共に、土地の伸び縮みなどを求めています。これらの結果は、各種測量の基準として利用されているほか、地震予知研究などの基礎資料として利用されています。

 

 GPSは、英語の Global Positioning System の略称です。国土地理院では、汎地球測位システムと訳していますが、日常的には略称のGPSが用いられています。

 

 GPSは、米国によって開発・運用されている船舶や航空機などの航法支援用測位システムの総称です。これは、GPS衛星が■■している電波を受信して、全世界的にリアルタイムで受信点の三次元位置座標を求めることができるシステムです。1地点だけで観測した場合の位置精度は数十メートル程度ですが、複数の地点で同時観測を行うことにより、観測地点の相対的な位置関係を正確に求めることができます。

建設省国土地理院



 この文章を、読み解いてみましょう。

 まず第1パラグラフでは、素材や構造、構成要素など、システムの外形について説明しています。

 続いて2パラでは、得られたデータがどう役立つかを解説。「正確な位置の決定」は他所でも見ますが、「土地の伸び縮み」という表現にはオリジナリティを感じます。今はもう使われない「地震予知」という用語も入っています。

 3パラではGPSの原語表記と訳と略語の説明をし、4パラで主たる用途として知られる航法(ナビゲーション)に触れながら、核心に迫ります。

 3パラ第2センテンスの■■は、文字がかすれて読み取れなかった部分です。「送信」でもよさそうですが「送信している電波を受信し」では表現として幼稚です。ふさわしい語は「放送」かなと思います。衛星は信号を送りっぱなしだけれども、受信者側で演算を行うことで位置がわかる、というニュアンスが多少は伝わるのではないかと。次に行ったときに確かめてみますが。

 

 そして太文字にした最後の1センテンスが、電子基準点網の本質を表わしています。「単独での位置精度は数十メートル程度」の設備を全国に建てまくってもあまり役にはたちません。「複数点での同時観測により、互いの位置関係が正確に分かる」からこそ、まさにそれをするために、電子基準点のネットワークが整備されました。出生の秘密がここで明かされているわけです。

 あちこち訪点し知識も増えてきてはじめて、これが「核心」と分かりました。ここまで詳しく書いている銘板はまだ見たことがありません。どんな経緯で作られたのか、また疑問が生まれました。