そこに痕はあるんか?

 読売新聞は、石川・小松空港で航空機のGNSS受信機に障害が起き、近隣工事現場の海外製ワイヤレスカメラが原因だったという内容の記事を配信(2022-04-14)Yahoo!ニュースなどにも転載され話題となりました。

 

 このトラブルは昨年1月に総務省北陸総合通信局が報道発表(2021年1月18日)したもので、アマチュア無線専門ニュースサイトのhamlife.jpも翌日に報じています。読売さんなぜ今頃?と思ったりもしましたが、戦争の空気が世界を覆うこのご時世だからなのでしょうか。

(画像:総務省報道発表資料より)
(画像:総務省報道発表資料より)

 

 原因となったカメラは、目視確認で安全性を高めようとクレーンの先端に取り付けたワイヤレスカメラで、海外通販で購入したものとのこと。報道発表の写真の高架橋と空港からの距離約4km(読売新聞より)を考え合わせると、北陸新幹線の延伸工事の現場だったようです。

 

――報道発表資料の【経緯】――

令和2(2020)年12月15日、駐機している航空機よりGNSSが使用できないとの通報があった旨、
国土交通省から関東総合通信局に申告があり、当局(北陸総合通信局)が対応しました。
当該事象は12月14日から発生しているとのことであり、15日から18日まで現地を調査したところ、
小松空港より数キロメートル離れた工事現場でクレーンに設置されたワイヤレスカメラからの電波を確認し、
使用を停止させたところ、混信が解消されました。

設置者に対しては、ワイヤレスカメラを使用しないよう指導し、妨害源を排除しました。

      (※カッコ内は筆者)

 

 小松空港は民間と航空自衛隊が共用する飛行場です。滑走路海側の旅客機ターミナル対面に小松基地があり、新幹線の工事現場からの電波で影響を受けやすいのは陸に近い基地側です。中央省庁経由の連絡で即日調査開始ということですから、影響を受けたのは自衛隊機で間違いないでしょう。旅客機なら記事でも旅客機と書くでしょうから。

 

 カレンダーで見てみると事象発生の12月14日は月曜で、発見の18日は金曜でした。後から考えれば、工事現場が休みなら電波も出ず、週末かけて見つからない相手を探し続け、下手をすれば年末年始に尾を引くことになっていたかもしれません。ウイークデイのうちに見つかり、調査を担当した方は、相当にホッとされたのではないでしょうか。

 

 なお記事を見て「海外から日本に持ち込んだのがいけないのか」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、GNSSに影響が出るなら世界中どこで使ってもその製品はアウトであることはお忘れなく。

電子基準点の観測データに痕跡が残っていたりする?

 さて、空港のすぐそばには、電子基準点「小松」(950255)があります。滑走路端からは500mもありません。そして電子基準点の過去の観測データは、登録は必要ですが無償でダウンロードすることができます。

 航空機に障害が出るくらいのできごとなら、観測データにも痕跡が残っているのではないかと期待して、局番号と期間を指定し国土地理院サイトからデータを入手。定番の解析ライブラリ「RTKLIB」に含まれるツール「RTKPLOT」で可視化し比較してみました。

 が、残念ながら私には違いは分かりません。後解析の「RTKPOST」でも試みましたが、やっぱり分かりませ。プロが高度な解析をすれば見えてくるのかもしれません。これを機にRTKPLOTやRTKPOSTに少し慣れることができたので、ヨシとしたいと思います。

12/13(左)と12/15(右)のGNSS衛星の観測データをプロットしたもの。UTCなので午前9時から午後9時まで

12/13~12/20(左上~右下)まで、R:「小松」B:「山中A」で基線解析(らしきこと?)を試みたが...
12/13~12/20(左上~右下)まで、R:「小松」B:「山中A」で基線解析(らしきこと?)を試みたが...

 GNSSはそもそも微弱な電波、それも自然界に存在するノイズレベル以下の電波強度で信号を送っています。その分、妨害には強いのだとは言うものの、弱い電波で障害が起きてしまうこともあり、今回はおそらくそのケースだったのかもしれず障害となる電波源を探し出すのも至難の技だったと思います。報道資料でも読売記事でも触れられていますが、航空機であろうが自動車であろうがGNSSの障害は人命に関わります。本稿も「類似事案の再発防止のため周知広報」の資になればと思います。


(※パイロット2名が亡くなった小松基地のF15墜落事故は2022年1月なので、上記事象とは関係ありません)

 

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